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[S-076] バックロードホーンの魅力と、設計の基本

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今日はバックロードホーン初心者の方に向けて、その魅力と基本となる設計法を説明しようと思います。




市販スピーカーのホーン

まず、「ホーン」というと、市販のホーン型スピーカーを思い浮かぶ方が多いかと思います。

JBL社のスタジオモニターシリーズが有名ですが、コーン型のウーハーの上部にホーン型のツイーターが組み合わされています。
このツイーターのホーンの形の事を「フロントロードホーン」と呼び、一番メジャーなホーンの形式になります。

ホーンの音の魅力は、何と言ってもトランジェントの良さではないでしょうか。
音の立ち上がり、立下りをキレ味よく、かつ浸透力のあるリアルな音で聴かせてくれるのは、ホーンならではの表現です。ジャズのドラムやシンバルの瞬発力、手を伸ばせば触れられそうなボーカルの立体的な音像感。これらの音は、ホーン型スピーカーの真骨頂だと思います。




低音にもホーンを付けられる?

ホーンが魅力的な音を出すことは、上記のとおりです。
しかし、市販スピーカーを見ると、高音を担当するツイーターにはホーンが付いていても、低音を担当するウーハーにはホーンが付いていないことが多いのです。

これは、ホーンというものは音の波長に対応するサイズが必要で、高音域(波長が短い)では家庭サイズのホーンが作れるのに対し、低音域(波長が長い)では非常に大型のホーンになってしまい家庭での実用性に乏しいという問題があるのです。




しかし、良いと分かっているものに全力を注ぐのが古今東西のオーディオマニアの性です。低音に巨大なホーンを装着し、低音から高音までの全ての帯域をホーンで再生する「オールホーン型スピーカー」も存在します。

家をまるごとコンクリートのホーンで作ってしまうようなケースもありますし、アバンギャルド社の「TRIO XD」のような数百万円のハイエンドスピーカーも、オールホーン型の一例になります。

※歴史的なホーンの進化の順序や、技術的にホーンが完全な動作をしているか否かは、別途調べて頂くのがよいでしょう。ここでは、私のスピーカー観に沿ってお話させて頂きます。




フルレンジ+低音ホーン=バックロードホーン

先に上げた「オールホーン型」は、各々のホーンが得意とする帯域が狭いために、3way~5wayといった複雑なシステムにならざるを得ないという欠点もあります。 そうなると、我々のような個人のスピーカービルダーが気軽に低音ホーンの音を楽しむというのは難しくなってしまいます。

それでは、ホーンを低音だけに使い、他の帯域はフルレンジユニットで再生するのはどうでしょう?
どうせなら、フルレンジの背面からの音を活用すれば、さらに合理的です。



これが、バックロードホーンです。
コーン型のスピーカーユニットは、振動板が前後に動いて音を出すため、我々が耳にする前側の音とほぼ等しい音が後ろにも出ています。この「後ろ音」をホーンで増幅するのが「バックロードホーン」です。

一般的には、後ろ側の音は吸音材で吸うべきとされています。これが前側の音と混ざると、位相が異なった音が干渉するのでは?という懸念もありました。

しかし、オーディオ評論家の長岡鉄男氏が1980~1990年代に発表したバックロードホーンは、ホーンならではの瞬発力とスピード感のある低音が感じられ、懸念された欠点を上回る魅力があるとして大きな評判になりました。




バックロードホーン設計の基本

バックロードホーンはどうやって設計すればいいのでしょうか。



設計が難しいと言われるバックロードホーンですが、設計の基本となるパラメーターは僅か4つだけです。

①空気室の容量
②スロートの断面積
③ホーン音道の長さ
③ホーン音道の広げ方




空気室とスロートの設計

スピーカーユニットが入る部分が「空気室」。そこに接続されるホーンの入り口が「スロート」です。
これらの設計で、ホーンの上限周波数、つまりユニットとホーンの帯域が切り替わるクロスオーバー周波数fxが決まってきます。



クロスオーバー周波数fxは、通常200Hzに設定します。この計算式は経験則に基づくものですが、信頼のおけるものだと感じています。
スロート断面積は、スピーカーユニットの振動板面積(コーン紙の面積)から計算します。通常は、振動板面積に対して80%が良いでしょう。

詳しい空気室の設計方法は、こちら
初心者の自作スピーカー講座 第15回
BH型スピーカーを設計しよう~その2 (空気室編)~




スピーカーユニットの選定

先ほどの推奨設計値は、Fostex社の「バックロードホーン向け」とされるユニットでの値です。

それ以外のユニットでの製作も、何回かチャレンジしましたが、正直言ってしまうとバックロードホーンにはバックロードホーンでの使用に特化したFostex社製のユニットを素直に使うのが一番だと感じています。

これらの製品には、取扱説明書に作例の掲載もあり、設計に困ったときの手助けになるでしょう。

<バックロードホーン向けのユニットは、以下の3シリーズ>
 FE-NVシリーズ(8cm~20cm)

 FE-NSシリーズ(10~20cm)

 FE-EΣシリーズ(10~20cm)


それぞれの詳細は、こちらのブログを参照。
「バックロードホーン向け16cmフルレンジ、試聴感想」


なお、その他のユニットはバスレフ型などの一般的な箱で使うことをお勧めします。バスレフ型でも設計次第ではかなりの瞬発力のある低音を狙うことができます。






ホーン音道の設計

ホーンの音道は、いかに理論に沿った広げ方をするかがポイントになります。 具体的には、下記の計算式で求められる「エクスポネンシャルホーン」という形状が知られています。



ホーンの広がり率mを設定することで、様々な広げ方のホーンを描くことができます。
私の経験上、m=0.8がオススメです。

なお、広がり率の表記は他の方法もありまして、雑誌の評論家の先生方は、下記のページに記載の広がり率(約1.1)で説明することもあるようです。
https://www.minor-audio.com/bibou/speaker/backroadhorn.html

このホーンの曲線は、excelで簡単に描くことができます。
下記webページをご参照ください。

詳しいホーンの曲線の設計方法は、こちら
初心者の自作スピーカー講座 第16回
BH型スピーカーの設計 ~その3 (ホーン編)~


広がり率をm=0.8に固定した場合、ホーンの長さでホーン全体の容積が決まります。
ホーンの長さは伸ばした方が低音再生には有利になりますが、容量も考慮すると1.7~2.5mが実用的な範囲ではないでしょうか。もちろん、さらに小型化を狙う場合はもっと短いホーンもありえますが、短いホーンは低音再生能力が下がるので注意が必要です。




本作の設計

FE168SS-HPを搭載する本作[S-076]では、下記のような設計パラメーターとしました。

・空気室容量 約4~6L (fx=約230~150Hz) ※ユニットの容量を除いた値
・スロート断面積 90cm2 (振動板面積の80%)
・ホーン広がり率 m=0.8
・ホーン長さ   1.7m


比較的オーソドックスな値かと思います。
ホーン長さを短めにして、6畳間でも使いやすいサイズ感を目指しました。


こうして計算したホーンを、パタパタと折り曲げていくと、こんな感じに。



これだけでは、ホーンの構造が分かりにくいと思いますので、
次回の日記で、詳しく説明しようと思います。



~続く~










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