今回は、FE166NV、FE168NS、FE168EΣ、FE168SS-HPを比較試聴したときに感じたことを、まとめて書いていこうと思います。
先日公開した動画「Fostex バックロード向け16cmフルレンジ 比較試聴」を見ながら読んでもらえると、より分かりやすいと思います。
FE166NV 標準価格 ¥12,650(税込)/1台
今回試聴したなかでは、最もリーズナブルな製品です。
2019年11月に発売されたモデルで、ロングセラー商品の多い自作スピーカーユニットとしては新顔の部類に入るでしょう。
しかし、このFEシリーズはFE166E→FE166En→FE166NVとマイナーチェンジを重ねており、その歴史は1964年に発売されたFE103(※10cm口径)まで遡ることになります。
上級機と見比べると価格なりの作りに見えてしまいますが、不動の人気を誇るFEシリーズの中核を占めるモデルとして十分な魅力があります。
また、小口径のFE103NVやFE126NVと比べて、低音再生が容易なのもFE166NVの良さです。箱設計をシビアに考えなくても、しっかりとした低音を聴かせてくれるという点で、16cm口径のメリットがあると思います。
聴いてみると、上級機と比べると情報量はやや少ないのですが、音を朗々と鳴らすエネルギーを感じました。ボーカルや低音楽器の存在感は、小口径のフルレンジや小型市販スピーカーでは味わえないレベルにあるのは間違いありません。
とくに、大編成のオーケストラやJAZZ、さらにはロックが好きな人には、この大口径バックロードの分厚いサウンドにぜひ一度触れてみて頂きたいところです。
箱は、あまりガチガチに作り込みすぎない方が良いでしょう。ユニットから出てくる音を、より拡張するような感じで、自然に箱が振動するような作りの方がこのユニットの鳴りっぷりの良さを引き出すことができそうです。
使いこなしとしては、スーパーツイーターの追加が効果的と思われます。FE166NV単体でもフルレンジとして楽しむことができますが、クラシックやボーカルの繊細さを狙うには超高音域の不足を感じました。FT17Hなどの安価なツイーターをスーパーツイーターとして加えることで一層のグレードアップが図れるでしょう。
FE168NS 標準価格 ¥29,700(税込)/1台
FE166NVの兄貴分にあたるのが本機。FE168NSは2018年12月に発売され、「2層抄紙コーン」を量産型フルレンジで初めて搭載したことに注目が集まりました。
(※「2層抄紙コーン」は2014年に発売されたFE103Solで初搭載。しかしFE103Solは限定販売であり、量産モデルでの搭載はFE168NSが初。)
この2 層抄紙コーンは、コーン紙(振動板)の表と裏で、特性の異なる紙質になっているのが特徴です。紙コーンはパルプから作られますが、表側には短繊維のパルプ、裏側には長繊維のパルプが配合されています。これにより、癖が少ないながらもレスポンスに優れる音に仕上がっているのです。
聴いてみると、朗々と鳴るFE166NVの魅力はそのままに、さらに繊細でシルキータッチな表現も得意とします。音を抑圧するような素振りは一切なく、楽器ライクにフワッと音が出てくるのが魅力だと言えるでしょう。この辺は、Youtube動画でも上手く録音できたと思っています。
本機の得意分野は、ボーカル。 微妙なニュアンス一つ逃さない表現力は、FE168NSの再生品質の高さを裏付けるものでしょう。
箱は、しっかりとした本格派のバックロードホーンが似合います。もちろん、薄い板を使った箱でもユニットの持ち味を引き出すことができると思いますが、内圧に負けないタフな作りの箱を用意してやることで、どんな瞬発力のある音もリアルに聴かせるスピーカーに仕上がるはずです。ユニットの能力が高いために、こうした凝った使いこなしにも応えてくれるのです。
使いこなしとしては、振動を丁寧に扱ってやることがポイントになりそうです。しっかりとした箱に入れることと、振動を殺すことは必ずしも同一ではありません。FE168NSはダブルコーンの軽量振動板が持ち味。その楽器ライクな音の表現をスポイルすることなく鳴らすためには、箱を構成する素材の吟味や、制振のサジ加減が求められるでしょう。
FE168EΣ 標準価格 ¥29,700(税込)/1台
発売されたのは、なんと2004年。15年以上にもわたるロングランモデルがFE168EΣです。
当時は、FE166E(現在のFE166NV)の兄貴分として登場。その後、価格帯を同じくするFE168NSの登場で姿を消すかと思いきや、まさかの並列販売体制に。
使用しているESコーンは、バナナパルプを使っているもの。これを立体的な構造に仕上げているのが、外観上の特徴にもなっています。
この構造は「HPコーン」と呼ばれ、大型建築物の構造を支えるための高剛性化技術を振動板に応用したものです。
聴いてみると、研ぎ澄まされたピュアな音に驚かされます。一切の歪を排除するような純度の高さが感じられ、楽器的に鳴るNSとは異なる方向性です。低音は厚みとパワーを感じさせ、振動板の剛性の高さがそのまま音に表れている感じです。
その代償なのかは分かりませんが、高音域の一部の帯域にピークディップがあり、Youtube動画の録音ではそうした欠点が目立ってしまったのが残念です。
本機の得意分野は、クラシックやPOPS。複雑に音が絡み合い、音場が広大に広がる音源では、FE168EΣの音響性能の高さがいかんなく発揮されるでしょう。POPSだけでなく、意外とアニソンにも親和性があり、私自身数年間メインシステムとして本機を愛用していました。
箱は、FE168NSと同じく、しっかりとした作りが望まれます。特にこのユニットの純度の高い音を生かそうとすると、箱は剛性や制振を十分に考慮したいところです。そうすることで、瞬発力だけでなく、空間の透明度や奥行などもしっかりと表現できる高品位なバックロードホーンが作れるでしょう。
設計年式の古いユニットなので、先にも述べた通り高域にピークディップがあります。これをいかにカバーし、長所である歪の少なさや透明感を引き出せるかが使いこなしのポイントになりそうです。スーパーツイーターを組み合わせたり、ノッチフィルターをかけたりするなど、細かな使いこなしにもしっかり応えてくれるのがFE168EΣだと思います。しっかりと使いこなせば、FE168SS-HPにも匹敵する品位の再生音が得られると感じています。
FE168SS-HP 標準価格 ¥38,500(税込)/1台
2021年4月発売の限定ユニット。当初、10cm・20cm口径でリリースされた「FExx8-Sol」系統(FE-NSシリーズの強化版)での登場が予想されていましたが、その斜め上をいく発表内容に驚かされたのは記憶に新しいところです。
振動板は、FE168EΣのHPコーンを踏襲したもの。実際に見比べても、その形状の差はごく僅かです。
もちろん、ハトメレス構造や、新たな振動板素材など、進化を感じさせる要素も盛り込まれています。
定価ペアで7万円近い値段の高級ユニットですが、投入された物量はもちろん、聴感でも十分に納得できる内容になっています。FE168EΣの低歪さを継承しつつ、さらにクセを減らしてきている感じです。過去の限定ユニットの評判が覆るぐらい使いやすく、万人にお勧めできるユニットです。
試聴では、高域に穏やかなロールオフを感じたため、スーパーツイーターをセットで使用することが大前提になるでしょう。この辺の個性は、Youtube動画でも確認できると思います。
本機は比較的オールラウンドに使えるタイプで、どんなジャンルの音楽にも違和感なく対応できると思います。あえて言うなれば、シンプルな録音の音源では、他のスピーカーでは体感できないほどの生々しい音像を楽しめると思います。
箱は、言うまでもなく十分に作り込まれたものとすべきでしょう。とくに、安価な構造用合板では箱由来のノイズが多く、せっかくのユニットの魅力が半減してしまうと思われます。試作検証が終わったら、フィンランドバーチ合板などでしっかり作ってやりたいところです。
最新型ユニットだけあって、非常に使いやすい音に仕上がっているFE168SS-HP。ハイ落ちゆえにスーパーツイーターが必須など、ある程度の予算が必要になるのは間違いありませんが、それに見合う音であるのは間違いなさそうです。
FE168SS-HPは、20年に一度ともいわれる16cm口径フルレンジの傑作。じっくりと腰を据えて、使いこなしに取り組めるユニットだと言えるでしょう。
以上が、各ユニットの感想になります。
全て聴いてみましたが、どれも魅力があって甲乙つけがたいですね(笑)
他のスピーカーでは味わえないバックロードホーンの世界、ぜひ体感してみて頂きたいと思います!
<関連記事>
2021年03月27日「FE168SS-HPの試聴動画を作成しました。」
2021年02月13日「Fostex FE168SSーHP 考察とバックロードホーン設計」
先日公開した動画「Fostex バックロード向け16cmフルレンジ 比較試聴」を見ながら読んでもらえると、より分かりやすいと思います。
FE166NV 標準価格 ¥12,650(税込)/1台
今回試聴したなかでは、最もリーズナブルな製品です。
2019年11月に発売されたモデルで、ロングセラー商品の多い自作スピーカーユニットとしては新顔の部類に入るでしょう。
しかし、このFEシリーズはFE166E→FE166En→FE166NVとマイナーチェンジを重ねており、その歴史は1964年に発売されたFE103(※10cm口径)まで遡ることになります。
上級機と見比べると価格なりの作りに見えてしまいますが、不動の人気を誇るFEシリーズの中核を占めるモデルとして十分な魅力があります。
また、小口径のFE103NVやFE126NVと比べて、低音再生が容易なのもFE166NVの良さです。箱設計をシビアに考えなくても、しっかりとした低音を聴かせてくれるという点で、16cm口径のメリットがあると思います。
聴いてみると、上級機と比べると情報量はやや少ないのですが、音を朗々と鳴らすエネルギーを感じました。ボーカルや低音楽器の存在感は、小口径のフルレンジや小型市販スピーカーでは味わえないレベルにあるのは間違いありません。
とくに、大編成のオーケストラやJAZZ、さらにはロックが好きな人には、この大口径バックロードの分厚いサウンドにぜひ一度触れてみて頂きたいところです。
箱は、あまりガチガチに作り込みすぎない方が良いでしょう。ユニットから出てくる音を、より拡張するような感じで、自然に箱が振動するような作りの方がこのユニットの鳴りっぷりの良さを引き出すことができそうです。
使いこなしとしては、スーパーツイーターの追加が効果的と思われます。FE166NV単体でもフルレンジとして楽しむことができますが、クラシックやボーカルの繊細さを狙うには超高音域の不足を感じました。FT17Hなどの安価なツイーターをスーパーツイーターとして加えることで一層のグレードアップが図れるでしょう。
FE168NS 標準価格 ¥29,700(税込)/1台
FE166NVの兄貴分にあたるのが本機。FE168NSは2018年12月に発売され、「2層抄紙コーン」を量産型フルレンジで初めて搭載したことに注目が集まりました。
(※「2層抄紙コーン」は2014年に発売されたFE103Solで初搭載。しかしFE103Solは限定販売であり、量産モデルでの搭載はFE168NSが初。)
この2 層抄紙コーンは、コーン紙(振動板)の表と裏で、特性の異なる紙質になっているのが特徴です。紙コーンはパルプから作られますが、表側には短繊維のパルプ、裏側には長繊維のパルプが配合されています。これにより、癖が少ないながらもレスポンスに優れる音に仕上がっているのです。
聴いてみると、朗々と鳴るFE166NVの魅力はそのままに、さらに繊細でシルキータッチな表現も得意とします。音を抑圧するような素振りは一切なく、楽器ライクにフワッと音が出てくるのが魅力だと言えるでしょう。この辺は、Youtube動画でも上手く録音できたと思っています。
本機の得意分野は、ボーカル。 微妙なニュアンス一つ逃さない表現力は、FE168NSの再生品質の高さを裏付けるものでしょう。
箱は、しっかりとした本格派のバックロードホーンが似合います。もちろん、薄い板を使った箱でもユニットの持ち味を引き出すことができると思いますが、内圧に負けないタフな作りの箱を用意してやることで、どんな瞬発力のある音もリアルに聴かせるスピーカーに仕上がるはずです。ユニットの能力が高いために、こうした凝った使いこなしにも応えてくれるのです。
使いこなしとしては、振動を丁寧に扱ってやることがポイントになりそうです。しっかりとした箱に入れることと、振動を殺すことは必ずしも同一ではありません。FE168NSはダブルコーンの軽量振動板が持ち味。その楽器ライクな音の表現をスポイルすることなく鳴らすためには、箱を構成する素材の吟味や、制振のサジ加減が求められるでしょう。
FE168EΣ 標準価格 ¥29,700(税込)/1台
発売されたのは、なんと2004年。15年以上にもわたるロングランモデルがFE168EΣです。
当時は、FE166E(現在のFE166NV)の兄貴分として登場。その後、価格帯を同じくするFE168NSの登場で姿を消すかと思いきや、まさかの並列販売体制に。
使用しているESコーンは、バナナパルプを使っているもの。これを立体的な構造に仕上げているのが、外観上の特徴にもなっています。
この構造は「HPコーン」と呼ばれ、大型建築物の構造を支えるための高剛性化技術を振動板に応用したものです。
聴いてみると、研ぎ澄まされたピュアな音に驚かされます。一切の歪を排除するような純度の高さが感じられ、楽器的に鳴るNSとは異なる方向性です。低音は厚みとパワーを感じさせ、振動板の剛性の高さがそのまま音に表れている感じです。
その代償なのかは分かりませんが、高音域の一部の帯域にピークディップがあり、Youtube動画の録音ではそうした欠点が目立ってしまったのが残念です。
本機の得意分野は、クラシックやPOPS。複雑に音が絡み合い、音場が広大に広がる音源では、FE168EΣの音響性能の高さがいかんなく発揮されるでしょう。POPSだけでなく、意外とアニソンにも親和性があり、私自身数年間メインシステムとして本機を愛用していました。
箱は、FE168NSと同じく、しっかりとした作りが望まれます。特にこのユニットの純度の高い音を生かそうとすると、箱は剛性や制振を十分に考慮したいところです。そうすることで、瞬発力だけでなく、空間の透明度や奥行などもしっかりと表現できる高品位なバックロードホーンが作れるでしょう。
設計年式の古いユニットなので、先にも述べた通り高域にピークディップがあります。これをいかにカバーし、長所である歪の少なさや透明感を引き出せるかが使いこなしのポイントになりそうです。スーパーツイーターを組み合わせたり、ノッチフィルターをかけたりするなど、細かな使いこなしにもしっかり応えてくれるのがFE168EΣだと思います。しっかりと使いこなせば、FE168SS-HPにも匹敵する品位の再生音が得られると感じています。
FE168SS-HP 標準価格 ¥38,500(税込)/1台
2021年4月発売の限定ユニット。当初、10cm・20cm口径でリリースされた「FExx8-Sol」系統(FE-NSシリーズの強化版)での登場が予想されていましたが、その斜め上をいく発表内容に驚かされたのは記憶に新しいところです。
振動板は、FE168EΣのHPコーンを踏襲したもの。実際に見比べても、その形状の差はごく僅かです。
もちろん、ハトメレス構造や、新たな振動板素材など、進化を感じさせる要素も盛り込まれています。
定価ペアで7万円近い値段の高級ユニットですが、投入された物量はもちろん、聴感でも十分に納得できる内容になっています。FE168EΣの低歪さを継承しつつ、さらにクセを減らしてきている感じです。過去の限定ユニットの評判が覆るぐらい使いやすく、万人にお勧めできるユニットです。
試聴では、高域に穏やかなロールオフを感じたため、スーパーツイーターをセットで使用することが大前提になるでしょう。この辺の個性は、Youtube動画でも確認できると思います。
本機は比較的オールラウンドに使えるタイプで、どんなジャンルの音楽にも違和感なく対応できると思います。あえて言うなれば、シンプルな録音の音源では、他のスピーカーでは体感できないほどの生々しい音像を楽しめると思います。
箱は、言うまでもなく十分に作り込まれたものとすべきでしょう。とくに、安価な構造用合板では箱由来のノイズが多く、せっかくのユニットの魅力が半減してしまうと思われます。試作検証が終わったら、フィンランドバーチ合板などでしっかり作ってやりたいところです。
最新型ユニットだけあって、非常に使いやすい音に仕上がっているFE168SS-HP。ハイ落ちゆえにスーパーツイーターが必須など、ある程度の予算が必要になるのは間違いありませんが、それに見合う音であるのは間違いなさそうです。
FE168SS-HPは、20年に一度ともいわれる16cm口径フルレンジの傑作。じっくりと腰を据えて、使いこなしに取り組めるユニットだと言えるでしょう。
以上が、各ユニットの感想になります。
全て聴いてみましたが、どれも魅力があって甲乙つけがたいですね(笑)
他のスピーカーでは味わえないバックロードホーンの世界、ぜひ体感してみて頂きたいと思います!
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2021年03月27日「FE168SS-HPの試聴動画を作成しました。」
2021年02月13日「Fostex FE168SSーHP 考察とバックロードホーン設計」