ひのきスピーカー日誌【0012回】は、連載している「ウーハーの矛盾」について考える最終章です。
議論の整理
ーーーー前回までの概要ーーーーー
【第一回】
・柔らかいエッジは、低音再生にとって必要悪。
・振動板を大きくすることで、エッジの面積を相対的に減らせる。
【第二回】
・エンクロージャー(箱)に比べると、ウーハーの振動板は軟弱。
・ウィークポイントである振動板は小さくしたい。
・音圧を稼ぐためには、振幅が必要。 大きなエッジが必要。
ーーーーーーーーーーーーーーー
こうして考えていくと、ウーハーは「大きい」のが良いのか、「小さい」のが良いのか、なかなか結論が難しいと言えます。どちらも短所長所があり、常に議論が平行線なのも頷けます。
特に第二回では、
「音圧を稼ぐためには、振幅が必要。(ゆえに、小口径にすると)大きなエッジが必要。」という結論に至りました。
しかし、よく考えてみると、
本当に「音圧を稼ぐ必要があるのか?」という疑問が出てきます。
耐入力を優先にせざるを得ない理由
メーカーの立場でいえば、お客様は様々な音圧で聴きますし、
オーディオショウのデモで出すような大音量にも対応する必要があります。
私も様々な家庭、特設会場でのオーディオを経験してきましたが、
環境やユーザーの好みによって、20dB程度の音圧差があると言っても過言ではありません。
80dB前後で済む一般家庭での環境。
100dB近い音量が必要とされるオーディオショウ
20dBの差を分かりやすく言うのであれば、同じ音楽を聴くにしても、1Wで済む場合と、100Wが必要な場合があるという事です。
それは、ウーハーの振幅、耐入力に直結します。
そうなるとメーカーは、100Wの使用環境に耐えられるよう製品を設計しなければなりません。十分な音量が出せなくては、クレームになってしまいますからね。
必要悪だと分かっている設計(大きなエッジ等)も、
耐入力向上のためには取り入れなくてはいけません。
しかし、1Wで済む人、一般家庭で90dB以下で音楽を楽しむ方にとっては、
その恩恵が享受できないばかりか、デメリットばかり被ることになってしまいます。
本当に「音圧を稼ぐ必要があるのか?」については、
改めて再考しないといけない部分だと、私は考えています。
ハイエンドに学ぶ、ウーハーシステム設計術
実は、この課題に対していち早く対応しているのがハイエンドオーディオです。
設計の自由度が大きいと思われるハイエンドの世界ですが、オーディオマニア層からラグジュアリー層まで、幅広く対応する製品を作らなければならない悩みがあるのです。
特にこの「音圧」問題。 ウーハーの想定耐入力をどこまで持たせればよいかは難しい問題でした。
少し前までは、38cmウーハー相当の口径が主流でしたが、この「ウーハーの矛盾」で述べたように、必要以上のウーハー面積は悪なのです。
そこで、近年出てきたのが、組み上げ式タイプ。
必要に応じてウーハーを増やしていくことができる構成です。
たとえば、HIRO ACOUSTIC社では、「MODEL-CCS(1,425万円)」をベースグレードとして、「MODEL-C4CS」「MODEL-C8CS」というウーハー筐体を増やした上位機種をラインナップしています。
「MODEL-CCS」
「MODEL-C4CS」
「MODEL-C8CS」
説明には、「基本となる音質に上下関係があるわけではありません。オーディオルームの広さなどユーザーの環境にマッチした機種をお選びいただくことで、HIROの性能は十分発揮することができるのです。」とあり、
小空間で使いやすい最高品位のウーハーシステムを作り、使用環境に応じてそれを増やしていくという考え方をしていることが分かります。
MARTEN社の例では、中堅のMingusシリーズ「Mingus Orchestra(2,500万円)」、上位のColtraneシリーズ「Coltrane Momento 2」が存在しています。
「Mingus Orchestra」
「Coltrane Momento 2」
この二機種はグレード差も含めての違いがありますが、ユニット構成としては、ツイーターとミッドレンジを共通とし、22cm口径のウーハーを4発もしくは6発と選べるようにして、使用環境に適合させています。
最近、日本への輸入が開始され注目されているaudionec社は、
evoシリーズとして、「モジュラースピーカー(modular speakers)」として、スピーカーを成長させることができることを特徴としています。
口径の違いもありますが、同じコンセプトで作られたウーハーを、使用環境に応じて自在に組み替えて使えるコンセプトになりますね。
最高品位を手の届く値段で
今回紹介した製品は、世界の最高峰といえるものですが、どれもかなりの高額です。
しかし、これらのコンセプトは非常に興味深く、
品位を極限まで高めたウーハーを、必要な音量・環境に応じて追加していくという考え方は、今まで議論してきた「ウーハーの矛盾」を打開する一つの可能性だといえるでしょう。
さて、もうお気づきかもしれませんが、
こうした「最高品位のウーハーを、必要な数だけ」というコンセプトを、手の届くお値段で実現したいと思って、既に動き始めています。
2021年には、何かしらの形としてお届けできるように頑張っておりますので、
今しばらくお待ち頂ければ幸いです!
議論の整理
ーーーー前回までの概要ーーーーー
【第一回】
・柔らかいエッジは、低音再生にとって必要悪。
・振動板を大きくすることで、エッジの面積を相対的に減らせる。
【第二回】
・エンクロージャー(箱)に比べると、ウーハーの振動板は軟弱。
・ウィークポイントである振動板は小さくしたい。
・音圧を稼ぐためには、振幅が必要。 大きなエッジが必要。
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こうして考えていくと、ウーハーは「大きい」のが良いのか、「小さい」のが良いのか、なかなか結論が難しいと言えます。どちらも短所長所があり、常に議論が平行線なのも頷けます。
特に第二回では、
「音圧を稼ぐためには、振幅が必要。(ゆえに、小口径にすると)大きなエッジが必要。」という結論に至りました。
しかし、よく考えてみると、
本当に「音圧を稼ぐ必要があるのか?」という疑問が出てきます。
耐入力を優先にせざるを得ない理由
メーカーの立場でいえば、お客様は様々な音圧で聴きますし、
オーディオショウのデモで出すような大音量にも対応する必要があります。
私も様々な家庭、特設会場でのオーディオを経験してきましたが、
環境やユーザーの好みによって、20dB程度の音圧差があると言っても過言ではありません。
80dB前後で済む一般家庭での環境。
100dB近い音量が必要とされるオーディオショウ
20dBの差を分かりやすく言うのであれば、同じ音楽を聴くにしても、1Wで済む場合と、100Wが必要な場合があるという事です。
それは、ウーハーの振幅、耐入力に直結します。
そうなるとメーカーは、100Wの使用環境に耐えられるよう製品を設計しなければなりません。十分な音量が出せなくては、クレームになってしまいますからね。
必要悪だと分かっている設計(大きなエッジ等)も、
耐入力向上のためには取り入れなくてはいけません。
しかし、1Wで済む人、一般家庭で90dB以下で音楽を楽しむ方にとっては、
その恩恵が享受できないばかりか、デメリットばかり被ることになってしまいます。
本当に「音圧を稼ぐ必要があるのか?」については、
改めて再考しないといけない部分だと、私は考えています。
ハイエンドに学ぶ、ウーハーシステム設計術
実は、この課題に対していち早く対応しているのがハイエンドオーディオです。
設計の自由度が大きいと思われるハイエンドの世界ですが、オーディオマニア層からラグジュアリー層まで、幅広く対応する製品を作らなければならない悩みがあるのです。
特にこの「音圧」問題。 ウーハーの想定耐入力をどこまで持たせればよいかは難しい問題でした。
少し前までは、38cmウーハー相当の口径が主流でしたが、この「ウーハーの矛盾」で述べたように、必要以上のウーハー面積は悪なのです。
そこで、近年出てきたのが、組み上げ式タイプ。
必要に応じてウーハーを増やしていくことができる構成です。
たとえば、HIRO ACOUSTIC社では、「MODEL-CCS(1,425万円)」をベースグレードとして、「MODEL-C4CS」「MODEL-C8CS」というウーハー筐体を増やした上位機種をラインナップしています。
「MODEL-CCS」
「MODEL-C4CS」
「MODEL-C8CS」
説明には、「基本となる音質に上下関係があるわけではありません。オーディオルームの広さなどユーザーの環境にマッチした機種をお選びいただくことで、HIROの性能は十分発揮することができるのです。」とあり、
小空間で使いやすい最高品位のウーハーシステムを作り、使用環境に応じてそれを増やしていくという考え方をしていることが分かります。
MARTEN社の例では、中堅のMingusシリーズ「Mingus Orchestra(2,500万円)」、上位のColtraneシリーズ「Coltrane Momento 2」が存在しています。
「Mingus Orchestra」
「Coltrane Momento 2」
この二機種はグレード差も含めての違いがありますが、ユニット構成としては、ツイーターとミッドレンジを共通とし、22cm口径のウーハーを4発もしくは6発と選べるようにして、使用環境に適合させています。
最近、日本への輸入が開始され注目されているaudionec社は、
evoシリーズとして、「モジュラースピーカー(modular speakers)」として、スピーカーを成長させることができることを特徴としています。
口径の違いもありますが、同じコンセプトで作られたウーハーを、使用環境に応じて自在に組み替えて使えるコンセプトになりますね。
最高品位を手の届く値段で
今回紹介した製品は、世界の最高峰といえるものですが、どれもかなりの高額です。
しかし、これらのコンセプトは非常に興味深く、
品位を極限まで高めたウーハーを、必要な音量・環境に応じて追加していくという考え方は、今まで議論してきた「ウーハーの矛盾」を打開する一つの可能性だといえるでしょう。
さて、もうお気づきかもしれませんが、
こうした「最高品位のウーハーを、必要な数だけ」というコンセプトを、手の届くお値段で実現したいと思って、既に動き始めています。
2021年には、何かしらの形としてお届けできるように頑張っておりますので、
今しばらくお待ち頂ければ幸いです!