ひのきスピーカー日誌【0010回】は、前回に引き続き「ウーハーの矛盾」がテーマです。
ウーハーに限らず、スピーカーの振動板は、
入力信号に対して忠実に動くべき、という考え方があります。
そうした思想に対して、「振動板の変形」は大きな阻害要因となります。
前回の記事では、ウーハーの「エッジ」に注目しては話をしました。
前回記事の要点は3つ。
・エッジは振動板の一部といえる。
・エッジのような柔らかい素材は、振動板として好ましくない。
・しかし、ウーハーが動くためにはエッジが必要。
これが、前回お話した「ウーハーの矛盾」です。
望ましくない構成要素であるエッジですが、構造上無くすことができないのです。
この影響を軽減するためには、
「振動板を大きくすることで、エッジの相対的な面積を減らす、のが良い。」
という結論に至りました。
さて、ここからが本日のお話です。
「振動板を大きくする」作戦、これも大きな難点を抱えているのです。
ここにスピーカーの断面図を用意しました。
スピーカーから音が出ると、その内部には強大な圧力変動が生じます。
(これは密閉型でもバスレフ型でも同じです)
この内圧の影響を受けて、エンクロージュアは振動します。
しかし問題は、この内圧が「ウーハーの振動板」にも加わっているということです。
内圧は、エンクロージュアと、ウーハーの振動板の
双方に平等に影響を及ぼします。
エンクロージュアは、厚い材料(主に木材)でできているために、かなり頑丈です。
その一方で、ウーハーの振動板はどうでしょう?
カタログでは強靭であると謳っていても、基本は紙一重です。
ウーハーの振動板は、入力信号に対して俊敏に動くことが求められるため、
剛性一辺倒で設計を進めることができない部品になります。
ここで、一つの仮説が生まれます。
「エンクロージュアに比べると、振動板は内圧に対しての弱点になるのではないか。」
上記の構造上の話からすれば、正しいように思えますが、
振動板には「電磁制動」がかかるという指摘もあるでしょう。
スピーカーがアンプに接続されると、スピーカーからの逆起電力をアンプが受け止めることで、振動板の制動がなされます。これは想像以上に強力で、この制動があるか無いかでスピーカーの特性は大きく変化します。
しかし、この電磁制動は最低域には有効でも、中高域には殆ど影響がありません。また、振動板が大きくなると、その制動が難しくなる傾向があります。
大口径の振動板が「雑味のある音」としばしば称されるのはそのためです。
そして、電磁制動が効かない振動板変形もあります。
非軸対称モードと呼ばれるもので、コーン型振動板の剛性が著しく低下する中低音域で発生する現象です。
(参考)「JAS Journal 2016 Vol.56 No.1」
http://www.jas-audio.or.jp/jas_cms/wp-content/uploads/2016/01/2016-084-092.pdf
周波数特性には表れにくい非軸対称モード共振ですが、聴感への影響は大きなものがあります。近年ではA&Cオーディオ社の島津氏が主張し、私も再現実験で聴感・測定共に確認できている現象です。
(参考)A&Cオーディオ「最新版・超硬振動板 その5 本当の問題点」
https://blog.goo.ne.jp/ac-audio/e/e02cefc45da8cdbc88de71907ee6d9e8
このように、電磁制動があるとはいえ、ウーハーの振動板に内圧がかかることは、
入力信号以外の振動・共振を生み、好ましくない結果を生み出してしまいます。
ちなみに、タンデム駆動と呼ばれる方法では、ウーハー振動板にかかる内圧を軽減することができます。しかし、構造上の特殊さ、2倍の数のウーハーユニットが必要なことから、総合的なコストパフォーマンスを考えると、その用途は限られてくるという印象です。
さて、今までの話をまとめると・・・
・エッジの面積を減らすために、振動板を大きくしたい。(前回のお話)
↓
・振動板は、エンクロージャーと比べると内圧に弱い。
↓
・振動板を小さくして、内圧の影響を軽減したい。
↓
・小さな振動板で、同じ音量を出すには、振幅を増やす必要がある。
↓
・振幅を増やすには、エッジを大きくする必要がある。
・・・結局エッジが大きくなってしまいました(笑)
さて、長々と続いてしまう「ウーハーの矛盾」。
次回は、その打開策について提案できればと思っています! お楽しみに!!
ウーハーに限らず、スピーカーの振動板は、
入力信号に対して忠実に動くべき、という考え方があります。
そうした思想に対して、「振動板の変形」は大きな阻害要因となります。
前回の記事では、ウーハーの「エッジ」に注目しては話をしました。
前回記事の要点は3つ。
・エッジは振動板の一部といえる。
・エッジのような柔らかい素材は、振動板として好ましくない。
・しかし、ウーハーが動くためにはエッジが必要。
これが、前回お話した「ウーハーの矛盾」です。
望ましくない構成要素であるエッジですが、構造上無くすことができないのです。
この影響を軽減するためには、
「振動板を大きくすることで、エッジの相対的な面積を減らす、のが良い。」
という結論に至りました。
さて、ここからが本日のお話です。
「振動板を大きくする」作戦、これも大きな難点を抱えているのです。
ここにスピーカーの断面図を用意しました。
スピーカーから音が出ると、その内部には強大な圧力変動が生じます。
(これは密閉型でもバスレフ型でも同じです)
この内圧の影響を受けて、エンクロージュアは振動します。
しかし問題は、この内圧が「ウーハーの振動板」にも加わっているということです。
内圧は、エンクロージュアと、ウーハーの振動板の
双方に平等に影響を及ぼします。
エンクロージュアは、厚い材料(主に木材)でできているために、かなり頑丈です。
その一方で、ウーハーの振動板はどうでしょう?
カタログでは強靭であると謳っていても、基本は紙一重です。
ウーハーの振動板は、入力信号に対して俊敏に動くことが求められるため、
剛性一辺倒で設計を進めることができない部品になります。
ここで、一つの仮説が生まれます。
「エンクロージュアに比べると、振動板は内圧に対しての弱点になるのではないか。」
上記の構造上の話からすれば、正しいように思えますが、
振動板には「電磁制動」がかかるという指摘もあるでしょう。
スピーカーがアンプに接続されると、スピーカーからの逆起電力をアンプが受け止めることで、振動板の制動がなされます。これは想像以上に強力で、この制動があるか無いかでスピーカーの特性は大きく変化します。
しかし、この電磁制動は最低域には有効でも、中高域には殆ど影響がありません。また、振動板が大きくなると、その制動が難しくなる傾向があります。
大口径の振動板が「雑味のある音」としばしば称されるのはそのためです。
そして、電磁制動が効かない振動板変形もあります。
非軸対称モードと呼ばれるもので、コーン型振動板の剛性が著しく低下する中低音域で発生する現象です。
(参考)「JAS Journal 2016 Vol.56 No.1」
http://www.jas-audio.or.jp/jas_cms/wp-content/uploads/2016/01/2016-084-092.pdf
周波数特性には表れにくい非軸対称モード共振ですが、聴感への影響は大きなものがあります。近年ではA&Cオーディオ社の島津氏が主張し、私も再現実験で聴感・測定共に確認できている現象です。
(参考)A&Cオーディオ「最新版・超硬振動板 その5 本当の問題点」
https://blog.goo.ne.jp/ac-audio/e/e02cefc45da8cdbc88de71907ee6d9e8
このように、電磁制動があるとはいえ、ウーハーの振動板に内圧がかかることは、
入力信号以外の振動・共振を生み、好ましくない結果を生み出してしまいます。
ちなみに、タンデム駆動と呼ばれる方法では、ウーハー振動板にかかる内圧を軽減することができます。しかし、構造上の特殊さ、2倍の数のウーハーユニットが必要なことから、総合的なコストパフォーマンスを考えると、その用途は限られてくるという印象です。
さて、今までの話をまとめると・・・
・エッジの面積を減らすために、振動板を大きくしたい。(前回のお話)
↓
・振動板は、エンクロージャーと比べると内圧に弱い。
↓
・振動板を小さくして、内圧の影響を軽減したい。
↓
・小さな振動板で、同じ音量を出すには、振幅を増やす必要がある。
↓
・振幅を増やすには、エッジを大きくする必要がある。
・・・結局エッジが大きくなってしまいました(笑)
さて、長々と続いてしまう「ウーハーの矛盾」。
次回は、その打開策について提案できればと思っています! お楽しみに!!