連載5回目の今日は、「管の折り返し」について考えてみます。
長岡先生の著書をはじめ、何となくは書かれている項目ですが、
実際に「管を折り返すと、何が起こるのか」を確認してみましょう。
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180°の折り返し
まずは、基本となる180°の折り返しパターンから。
ここでは、二つの断面積で、直管と180°折り返し管を比較してみます。
それぞれ、1回折り返しのシンプルな箱です。
ポイントは、以下の通りです。
・断面積が振動板比200%、400%となっていること
・音道の最短距離が1.2mとなっていること
断面積は、前回「その4」で説明したように200%~400%の間に最適値がありそう、という理由からの選択です。
また、音道の長さは、「音波は最短距離を通る」という仮説に基づいています。もしこの言葉の通りであれば、直管(1.2m)もU字管も同じ共鳴周波数となるはずです。
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180°の折り返し(結果)
それでは、早速結果を見てみましょう。
「ダクト直前」の特性では、ピーク位置が見にくいパターン(断面積200%の直管)もあったため、
まずは「ユニット直前」の特性に注目します。 前回説明した通り、これはディップの位置が共鳴周波数でしたね。
200%の断面積の管では、共鳴周波数が70Hzから60Hzに下がっています。
また、400%の断面積の管では、65Hzから50Hzに下がっています。
400%の「ダクト直前」特性でも、ピーク位置は80Hzから60Hzに下がっているので、
「共鳴周波数が下がった」というのは間違いなさそうです。
この理由については、以下のように推測しています。
今回の共鳴管では、「最短距離」が直管と同じようになるよう設計しました。
しかし、実際の音波は最短距離では進まず、
上の図のように、一部は迂回するような進み方をしたと考えられます。
(=実効長が長くなる → 共鳴周波数が下がる)
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折り返しの悪影響は?
今回の実験では、折り返しの影響は余り観測できませんでした。
実際にグラフを見てみても、どこかの高次共鳴が強調されているようには見えません。
むしろ、200%の軸上1m特性は低域(80Hz付近の)量感が増えており、180°折り返しの方が好ましい結果にすら見えます。
今回は、2つ折りのU字型でしたが、
もしかしたら3つ折りのように「共鳴の節や腹にあたる場所」に折り返しを作った場合は、何かしらの悪影響が出るのかもしれません。
また、軸上1m特性で確認された低域の音圧増大については、
以前、音工房Zの大山氏が、長岡氏のD-10バッキーや10cmバックロードについて研究していたときに「180°折り返しはローエンドに効く」のようなコメントをしており、これの裏付けとなるようなデータになったのかもしれません。
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コーナー部の処理
自作スピーカーのなかで、しばしば行われているのが「コーナー部の処理」です。
音の流れをスムーズにするよう、45°の板を以下の図のように設置することがあります。
では、どれほどの効果があるのか、
これも特性で確認してみましょう。
一見、殆ど違わないように見えますが、
よく見ると、いくつか違いがあることが分かります。
まずは、『軸上1m』特性に着目します。
200~400Hzにある特性の乱れ(凹凸)が、コーナー部処理があるほうが小さくなります。
直管ではなかった乱れなので、この180°折り返しの構造ゆえに出てきた乱れだと考えられます。
コーナー処理をすることで、音波がスムーズに伝達するようになったのか、それとも折り返し部に斜めの板が入り定在波が抑制されたのかは分かりませんが、結果として好ましい特性となりました。
一方で、『ダクト直前』特性では、
1kHz付近の盛り上がりが、コーナー部処理ありの方が大きくなっています。
以前から噂されていたように、コーナー部処理をすると中高域の反射もスムーズになり、中高音の漏れが多くなる、という事かもしれません。
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90°折り曲げ
他にも、「90°折り曲げは180°折り曲げと比べて影響が少ない」などと自作スピーカーの世界では言われていましたが、実際のところどうでしょうか?
振動板面積比400%の太さの管で実験してみました。
結果はこちら。
まずは、『軸上1m』特性に着目します。
先の180°折り返し(U字)に見られたような、200Hz~400Hzの特性の乱れもなく、
コーナー部処理の有無にかかわらず90°折り返し管は、殆ど直管と同じような特性が得られました。
そして、『ダクト直前』の特性。
今回は、最短距離が1mの管としましたが、予想通り共鳴は低めの80Hz(実効長1.2m)となりました。
こちらでも、音波の挙動が「最短距離でもなく、最長距離でもないところを通る」ということが確認できたと思っています。
また、コーナー部処理は、『ダクト直前特性』では明白に効いているようで、
500Hz~2kHzのピークディップが減少し、なだらかな特性になっていますね。
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90°折り曲げは低音が出ないのか?
自作スピーカーの謎の一つ、「D-111エスカルゴが低音が出ない」について考えてみます。
「D-111エスカルゴ」というのは、長岡鉄男先生の作品のうちの一つで、
アンモナイト型構造とも呼ばれ、まるでカタツムリの殻のように渦を巻いたホーンをもつバックロードホーン型スピーカーです。
全ての折り曲げが90°で構成され、まさに理想的で美しいホーンなのですが、
これが、低音が出ないと有名なのです(笑)
この理由は二つの理由があると考えています。
・直管に近い特性である
・実効音道長の差が大きい
一つ目は、先の実験でも出てきたように、90°折り返しは直管と同じような特性になるということです。一方で、180°折り返しの特性(軸上1m)では、直管より低音が出る特性となっていました。
つまり、「90°折り返しが低音が出ない」のではなく、「90°折り返しは、直管と同程度の低音が出る。180°折り返しの一般的な音響管と比べると、低音が出ない。」という理屈なのでは?と考えられます。
二つ目は、実効音道長の問題。
アンモナイト型の構造は、常に一方方向に曲がる90°の折り返しが連続します。先の実験では、実効音道長が最短距離を通らずに、他の長さの影響をも受ける、ということがありました。
もし、ホーン内部の最短距離を通った音と、最長距離を通った音が干渉するとしたら、どうでしょうか。もちろん、共鳴周波数もそれぞれ違うので、自ずと共鳴効率は下がります。
アンモナイト型構造は、単純な構造ゆえに、この音の干渉の影響が強かったのではないでしょうか?
ちなみに、上記は共鳴管としての動作の考察です。
バックロードホーンは、本来『ホーン』としての動作を期待して作る箱です。共鳴効率が落ちることは、ホーンとして理想的な動作に近づくということです。炭山アキラ先生が「部屋の隅であればアンモナイト型BHも低音が出る」というのも、ホーンとしての動作を十分に引き出すためのアイディアの一つでしょう。
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今回は、「管の折り曲げ」について見てみました。
共鳴管なので、比較的太めの管での実験となりましたが、
原理的には、バックロードホーンの管でも同じような結果となるはずです。
次回は、いよいよ共鳴管の特性をコントロールするテクニックについて、紹介していこうと思います。
長岡先生の著書をはじめ、何となくは書かれている項目ですが、
実際に「管を折り返すと、何が起こるのか」を確認してみましょう。
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180°の折り返し
まずは、基本となる180°の折り返しパターンから。
ここでは、二つの断面積で、直管と180°折り返し管を比較してみます。
それぞれ、1回折り返しのシンプルな箱です。
ポイントは、以下の通りです。
・断面積が振動板比200%、400%となっていること
・音道の最短距離が1.2mとなっていること
断面積は、前回「その4」で説明したように200%~400%の間に最適値がありそう、という理由からの選択です。
また、音道の長さは、「音波は最短距離を通る」という仮説に基づいています。もしこの言葉の通りであれば、直管(1.2m)もU字管も同じ共鳴周波数となるはずです。
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180°の折り返し(結果)
それでは、早速結果を見てみましょう。
「ダクト直前」の特性では、ピーク位置が見にくいパターン(断面積200%の直管)もあったため、
まずは「ユニット直前」の特性に注目します。 前回説明した通り、これはディップの位置が共鳴周波数でしたね。
200%の断面積の管では、共鳴周波数が70Hzから60Hzに下がっています。
また、400%の断面積の管では、65Hzから50Hzに下がっています。
400%の「ダクト直前」特性でも、ピーク位置は80Hzから60Hzに下がっているので、
「共鳴周波数が下がった」というのは間違いなさそうです。
この理由については、以下のように推測しています。
今回の共鳴管では、「最短距離」が直管と同じようになるよう設計しました。
しかし、実際の音波は最短距離では進まず、
上の図のように、一部は迂回するような進み方をしたと考えられます。
(=実効長が長くなる → 共鳴周波数が下がる)
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折り返しの悪影響は?
今回の実験では、折り返しの影響は余り観測できませんでした。
実際にグラフを見てみても、どこかの高次共鳴が強調されているようには見えません。
むしろ、200%の軸上1m特性は低域(80Hz付近の)量感が増えており、180°折り返しの方が好ましい結果にすら見えます。
今回は、2つ折りのU字型でしたが、
もしかしたら3つ折りのように「共鳴の節や腹にあたる場所」に折り返しを作った場合は、何かしらの悪影響が出るのかもしれません。
また、軸上1m特性で確認された低域の音圧増大については、
以前、音工房Zの大山氏が、長岡氏のD-10バッキーや10cmバックロードについて研究していたときに「180°折り返しはローエンドに効く」のようなコメントをしており、これの裏付けとなるようなデータになったのかもしれません。
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コーナー部の処理
自作スピーカーのなかで、しばしば行われているのが「コーナー部の処理」です。
音の流れをスムーズにするよう、45°の板を以下の図のように設置することがあります。
では、どれほどの効果があるのか、
これも特性で確認してみましょう。
一見、殆ど違わないように見えますが、
よく見ると、いくつか違いがあることが分かります。
まずは、『軸上1m』特性に着目します。
200~400Hzにある特性の乱れ(凹凸)が、コーナー部処理があるほうが小さくなります。
直管ではなかった乱れなので、この180°折り返しの構造ゆえに出てきた乱れだと考えられます。
コーナー処理をすることで、音波がスムーズに伝達するようになったのか、それとも折り返し部に斜めの板が入り定在波が抑制されたのかは分かりませんが、結果として好ましい特性となりました。
一方で、『ダクト直前』特性では、
1kHz付近の盛り上がりが、コーナー部処理ありの方が大きくなっています。
以前から噂されていたように、コーナー部処理をすると中高域の反射もスムーズになり、中高音の漏れが多くなる、という事かもしれません。
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90°折り曲げ
他にも、「90°折り曲げは180°折り曲げと比べて影響が少ない」などと自作スピーカーの世界では言われていましたが、実際のところどうでしょうか?
振動板面積比400%の太さの管で実験してみました。
結果はこちら。
まずは、『軸上1m』特性に着目します。
先の180°折り返し(U字)に見られたような、200Hz~400Hzの特性の乱れもなく、
コーナー部処理の有無にかかわらず90°折り返し管は、殆ど直管と同じような特性が得られました。
そして、『ダクト直前』の特性。
今回は、最短距離が1mの管としましたが、予想通り共鳴は低めの80Hz(実効長1.2m)となりました。
こちらでも、音波の挙動が「最短距離でもなく、最長距離でもないところを通る」ということが確認できたと思っています。
また、コーナー部処理は、『ダクト直前特性』では明白に効いているようで、
500Hz~2kHzのピークディップが減少し、なだらかな特性になっていますね。
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90°折り曲げは低音が出ないのか?
自作スピーカーの謎の一つ、「D-111エスカルゴが低音が出ない」について考えてみます。
「D-111エスカルゴ」というのは、長岡鉄男先生の作品のうちの一つで、
アンモナイト型構造とも呼ばれ、まるでカタツムリの殻のように渦を巻いたホーンをもつバックロードホーン型スピーカーです。
全ての折り曲げが90°で構成され、まさに理想的で美しいホーンなのですが、
これが、低音が出ないと有名なのです(笑)
この理由は二つの理由があると考えています。
・直管に近い特性である
・実効音道長の差が大きい
一つ目は、先の実験でも出てきたように、90°折り返しは直管と同じような特性になるということです。一方で、180°折り返しの特性(軸上1m)では、直管より低音が出る特性となっていました。
つまり、「90°折り返しが低音が出ない」のではなく、「90°折り返しは、直管と同程度の低音が出る。180°折り返しの一般的な音響管と比べると、低音が出ない。」という理屈なのでは?と考えられます。
二つ目は、実効音道長の問題。
アンモナイト型の構造は、常に一方方向に曲がる90°の折り返しが連続します。先の実験では、実効音道長が最短距離を通らずに、他の長さの影響をも受ける、ということがありました。
もし、ホーン内部の最短距離を通った音と、最長距離を通った音が干渉するとしたら、どうでしょうか。もちろん、共鳴周波数もそれぞれ違うので、自ずと共鳴効率は下がります。
アンモナイト型構造は、単純な構造ゆえに、この音の干渉の影響が強かったのではないでしょうか?
ちなみに、上記は共鳴管としての動作の考察です。
バックロードホーンは、本来『ホーン』としての動作を期待して作る箱です。共鳴効率が落ちることは、ホーンとして理想的な動作に近づくということです。炭山アキラ先生が「部屋の隅であればアンモナイト型BHも低音が出る」というのも、ホーンとしての動作を十分に引き出すためのアイディアの一つでしょう。
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今回は、「管の折り曲げ」について見てみました。
共鳴管なので、比較的太めの管での実験となりましたが、
原理的には、バックロードホーンの管でも同じような結果となるはずです。
次回は、いよいよ共鳴管の特性をコントロールするテクニックについて、紹介していこうと思います。