今日は、いよいよ共鳴管の設計に入ってきます。
お題は、「共鳴管の長さ」です。
共鳴管型スピーカーの設計の基礎ともいえるポイントなので、
じっくり説明していこうと思います。
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基本となる公式
基本となる公式は、「片開口共鳴管」の式です。
細かいことを言えば「開口端補正」などありますが、
今後の連載で説明するように、共鳴管型スピーカー自体が相当に複雑な動作をするので、
この段階で細かいことを議論する必要はないと考えています。
ざっと計算すると、
2.0m:42.5Hz
1.5m:56.7Hz
1.0m:85.0Hz
といった感じでしょうか。
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実際の動作
それでは、実際の動作を見てみましょう。
Fostexの10cmフルレンジ「P1000K」を使った箱です。
直管の端(閉じた方)に、スピーカーユニットを取り付けています。
図のように、管の長さが120cmなので、
先の公式では、71Hzが強調されるはずです。
そして、この箱の開口部の周波数特性はこんな感じ。
ちょうど、75Hz付近にピークが出来ています。
多少のズレはありますが、まあこんな感じです(笑)
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倍音について
ちょっと脱線しますが、先の共鳴管の開口部の特性で、
「200Hzと330Hzにもピークがあるじゃん!」と思った方も多いかもしれません。
これは、いわゆる倍音(高次共鳴)のことで、基音が先の計算で出てきた70Hzに対して、
それぞれ3倍音(70Hz×3=210Hz)、5倍音(70Hz×5=350Hz)に由来するものです。
今回の作例は、一切の折り曲げが無い「直管」の共鳴管ですが、
しっかりと、3倍音と5倍音が確認されました。
場合によっては、それ以上の高次共鳴がでるこもあります。
後日詳細を書きますが、「高次共鳴が起こるのは、複雑な折り返しのためである」というのは間違えで、
「複雑な折り返しが、高次共鳴を強調させることもある」というのが現実だと考えています。
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適切な長さ
先ほどの作例では、一発目から120cm(共振70Hz)の管を用意しましたが、
どうやって、その長さ(共振周波数、共鳴周波数)を決めればよいでしょうか?
実は、共鳴管の最適な長さ(最適な共振周波数)は、
メーカーが公開しているような「周波数特性」と「インピーダンス特性」から大体の推測ができます。
これは、先ほど使用したFostexのP1000Kのユニットのデータです。(Fostexの商品ページより)
このグラフをじっと見ていると、次第にこう見えてきます。
~周波数特性からの最適共振周波数~
まずは、赤線で示した部分。
これは周波数特性から判断した最適共振周波数で
「中低音域の音圧から-10dBのところ」です。
共鳴管といっても、魔法の道具ではないので、
低音増幅には限界があります。
一般的な共鳴管型スピーカーでは、たいてい+10dBの増幅が限度なので、
音圧の観点から、「中低音域の音圧から-10dBのところ」を設計上の共鳴点とするのが良いと感じています。
P1000Kでは、60Hz付近でしょうか。
~インピーダンス特性からの最適共振周波数~
そして、青線で示した部分。
これはインピーダンス特性から判断した最適共振周波数で
「インピーダンスピークの値から、半分ぐらいの高さとなるところ」です。
前回の説明で、管の端は「密閉」であるべき(=m0の小さなユニットは、共鳴を減衰する)という話をしましたが、
ユニットの共鳴周波数(f0)以下の領域でも、同様のことがいえると考えています。
共鳴周波数(f0)以上の領域であれば、ユニットに戻ってきた波を反射する(共鳴を維持する)ことは容易だと思いますが、
共鳴周波数(f0)以下の領域では、戻ってきた波に揺すられ、その波を(電磁制動として)吸収してしまい、共鳴が著しく非効率になるのではないか?と考えています。
その真偽は定かではありませんが、経験上からそんな感じがしており、
f0(インピーダンスのピーク)と比べて、余りにも低い周波数では、十分な共鳴を得ることができません。
そこで、目安として「インピーダンスピークの値から、半分ぐらいの高さとなるところ」という見方をしています。
そうしたことから、このP1000Kでは、70Hz~60Hzが最適、もしくは共鳴設計の下限値となるでしょうか?
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実際の設計への落とし込み
ユニットのスペックから、60~70Hzが最適共振点と求まりましたので、
前述の公式から、共鳴管は1.3m程度が好ましい、ということになります。
そこで、先の1.2mの直管に取り付けたP1000Kの1m特性を見てみましょう。
低域をみると、管の共振周波数である70~80Hzに小さなピークが見えますが、ほぼフラットな特性が実現できています。
もう少しダラ下がりの低域を狙いたければ、1.3m、1.4mと長い管を用意することで、
簡単に実現が可能かと思います。
一方で、共鳴管は「出すぎた低音を抑える」のは楽でも、
「出ない低音を出す」のは不可能なので、
今回のように若干短めの設計として、必要に応じて吸音材などで共鳴を抑えるのが安全かもしれません。
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他の例
この方法は、カタログスペックを見るだけで、
共鳴管の長さの推測を付けられるという、大きなメリットがあります。
例えば、これはFostexの16cmフルレンジFF165WKの特性ですが、、、
私なら、周波数特性が-10dBになっている、
40~50Hzあたりに共鳴を持ってくる(管の長さ1.7~2.1m)かな~、という感じでしょうか。
インピーダンス特性から考えると30Hz代の共鳴周波数の設定もできそうですが、中高域の音圧も高めのユニットなので、低音量感を確保する意味から50Hz弱ぐらいの共鳴を狙いたいところです。
まあ、もっと下の帯域を狙いたい気持ちも分からなくはないですが、
欲張れば欲張るほど、失敗する確率も高くなる、というのは何度も経験済みです。
そして、控えめな低音レンジで設計し、それゆえに、しっかりとした低域レスポンスをもつスピーカーは、
不用意に周波数レンジを広げたものより、ずっと気持ち良い低音を奏でてくれるものなのです。
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まとめ
共鳴管型スピーカーの最適共振周波数は、スピーカーユニット特性の、
「中低音域の音圧から-10dBのところ」
「インピーダンスピークの値から、半分ぐらいの高さとなるところ」となります。
まあ、人によって好みもあるので、「最適」というよりかは「カノン5Dの推奨値」といった方が適当かもしれませんね。
次回は、共鳴管設計の基本かつ不思議なところ「管の断面積」の解説です。
お題は、「共鳴管の長さ」です。
共鳴管型スピーカーの設計の基礎ともいえるポイントなので、
じっくり説明していこうと思います。
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基本となる公式
基本となる公式は、「片開口共鳴管」の式です。
細かいことを言えば「開口端補正」などありますが、
今後の連載で説明するように、共鳴管型スピーカー自体が相当に複雑な動作をするので、
この段階で細かいことを議論する必要はないと考えています。
ざっと計算すると、
2.0m:42.5Hz
1.5m:56.7Hz
1.0m:85.0Hz
といった感じでしょうか。
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実際の動作
それでは、実際の動作を見てみましょう。
Fostexの10cmフルレンジ「P1000K」を使った箱です。
直管の端(閉じた方)に、スピーカーユニットを取り付けています。
図のように、管の長さが120cmなので、
先の公式では、71Hzが強調されるはずです。
そして、この箱の開口部の周波数特性はこんな感じ。
ちょうど、75Hz付近にピークが出来ています。
多少のズレはありますが、まあこんな感じです(笑)
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倍音について
ちょっと脱線しますが、先の共鳴管の開口部の特性で、
「200Hzと330Hzにもピークがあるじゃん!」と思った方も多いかもしれません。
これは、いわゆる倍音(高次共鳴)のことで、基音が先の計算で出てきた70Hzに対して、
それぞれ3倍音(70Hz×3=210Hz)、5倍音(70Hz×5=350Hz)に由来するものです。
今回の作例は、一切の折り曲げが無い「直管」の共鳴管ですが、
しっかりと、3倍音と5倍音が確認されました。
場合によっては、それ以上の高次共鳴がでるこもあります。
後日詳細を書きますが、「高次共鳴が起こるのは、複雑な折り返しのためである」というのは間違えで、
「複雑な折り返しが、高次共鳴を強調させることもある」というのが現実だと考えています。
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適切な長さ
先ほどの作例では、一発目から120cm(共振70Hz)の管を用意しましたが、
どうやって、その長さ(共振周波数、共鳴周波数)を決めればよいでしょうか?
実は、共鳴管の最適な長さ(最適な共振周波数)は、
メーカーが公開しているような「周波数特性」と「インピーダンス特性」から大体の推測ができます。
これは、先ほど使用したFostexのP1000Kのユニットのデータです。(Fostexの商品ページより)
このグラフをじっと見ていると、次第にこう見えてきます。
~周波数特性からの最適共振周波数~
まずは、赤線で示した部分。
これは周波数特性から判断した最適共振周波数で
「中低音域の音圧から-10dBのところ」です。
共鳴管といっても、魔法の道具ではないので、
低音増幅には限界があります。
一般的な共鳴管型スピーカーでは、たいてい+10dBの増幅が限度なので、
音圧の観点から、「中低音域の音圧から-10dBのところ」を設計上の共鳴点とするのが良いと感じています。
P1000Kでは、60Hz付近でしょうか。
~インピーダンス特性からの最適共振周波数~
そして、青線で示した部分。
これはインピーダンス特性から判断した最適共振周波数で
「インピーダンスピークの値から、半分ぐらいの高さとなるところ」です。
前回の説明で、管の端は「密閉」であるべき(=m0の小さなユニットは、共鳴を減衰する)という話をしましたが、
ユニットの共鳴周波数(f0)以下の領域でも、同様のことがいえると考えています。
共鳴周波数(f0)以上の領域であれば、ユニットに戻ってきた波を反射する(共鳴を維持する)ことは容易だと思いますが、
共鳴周波数(f0)以下の領域では、戻ってきた波に揺すられ、その波を(電磁制動として)吸収してしまい、共鳴が著しく非効率になるのではないか?と考えています。
その真偽は定かではありませんが、経験上からそんな感じがしており、
f0(インピーダンスのピーク)と比べて、余りにも低い周波数では、十分な共鳴を得ることができません。
そこで、目安として「インピーダンスピークの値から、半分ぐらいの高さとなるところ」という見方をしています。
そうしたことから、このP1000Kでは、70Hz~60Hzが最適、もしくは共鳴設計の下限値となるでしょうか?
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実際の設計への落とし込み
ユニットのスペックから、60~70Hzが最適共振点と求まりましたので、
前述の公式から、共鳴管は1.3m程度が好ましい、ということになります。
そこで、先の1.2mの直管に取り付けたP1000Kの1m特性を見てみましょう。
低域をみると、管の共振周波数である70~80Hzに小さなピークが見えますが、ほぼフラットな特性が実現できています。
もう少しダラ下がりの低域を狙いたければ、1.3m、1.4mと長い管を用意することで、
簡単に実現が可能かと思います。
一方で、共鳴管は「出すぎた低音を抑える」のは楽でも、
「出ない低音を出す」のは不可能なので、
今回のように若干短めの設計として、必要に応じて吸音材などで共鳴を抑えるのが安全かもしれません。
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他の例
この方法は、カタログスペックを見るだけで、
共鳴管の長さの推測を付けられるという、大きなメリットがあります。
例えば、これはFostexの16cmフルレンジFF165WKの特性ですが、、、
私なら、周波数特性が-10dBになっている、
40~50Hzあたりに共鳴を持ってくる(管の長さ1.7~2.1m)かな~、という感じでしょうか。
インピーダンス特性から考えると30Hz代の共鳴周波数の設定もできそうですが、中高域の音圧も高めのユニットなので、低音量感を確保する意味から50Hz弱ぐらいの共鳴を狙いたいところです。
まあ、もっと下の帯域を狙いたい気持ちも分からなくはないですが、
欲張れば欲張るほど、失敗する確率も高くなる、というのは何度も経験済みです。
そして、控えめな低音レンジで設計し、それゆえに、しっかりとした低域レスポンスをもつスピーカーは、
不用意に周波数レンジを広げたものより、ずっと気持ち良い低音を奏でてくれるものなのです。
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まとめ
共鳴管型スピーカーの最適共振周波数は、スピーカーユニット特性の、
「中低音域の音圧から-10dBのところ」
「インピーダンスピークの値から、半分ぐらいの高さとなるところ」となります。
まあ、人によって好みもあるので、「最適」というよりかは「カノン5Dの推奨値」といった方が適当かもしれませんね。
次回は、共鳴管設計の基本かつ不思議なところ「管の断面積」の解説です。