さて前回の日記では、S-041を使って色々なデータをとってきました。
バックロードホーンというものは非常にシンプルなもので、
この図にしたようなものです。
現実には、ホーンは直管をつないだような構成なので、
理論的に求めた値からは若干ズレるようです。
ただ、私の印象だと、
大まかな音質はホーンの基礎設計で決まる…と考えています。
基礎設計、つまり空気室容量・スロート断面積・ホーン長・ホーン広がり率の4つがポイントなのです。
そこからの応用パターンとして、ホーンのとり回しや、開口部の位置などがあると考えています。
応用パターンばかり注目していると「BHは理論通りに動かないので、設計法が確立できない」ということになるので、
まずは基礎設計についての足固めが必要ではないか?と思っています。
今回の、試聴・測定編1〜6では、基礎設計部分の「空気室容量」「スロート断面積」についての確認ができたと思っています。
<空気室容量>
空気室容量というのは、「ユニットとホーンの接合の曖昧さ」を決定するものです。
この結合が明確に(空気室容量が小さく)なると、
ホーンからの再生音は中低域まで豊かなものになる共に、共鳴音は低減傾向にあります。
前者のホーンからの再生音が変化することについては、
長岡先生が「カットオフ」として明記していたことで広く知られているようです。
一方で、後者は案外知られていないのですが、気柱共鳴に基づく共鳴音を最も効果的に制御できるのはユニットの電磁制動であり、
空気室を小さくすることで、ホーン共鳴に対してより積極的な制動をもたらすことができるのです。
これら双方の観点から、空気室容量の調整は重要なのです。
<空気室容量を大きくしたときの再生音変化>
実際の再生音という観点から考えると、
空気室容量を小さくしていくと、中高域の存在感が弱まるように感じるのです。
機構としては、ホーンからの中低域再生音量が大きくなっているのですが、
実際にリスニングポジションで聴くと、相対的に中高域(ちょっと耳障りなボーカルの領域)が弱くなるように感じるのです。
また、低音の質感は改善傾向にあり、(他帯域に対して)小さな音量であっても、
明瞭で質感に富んだ低音が聴けるように変化します。
空気室を小さ目に設計したバックロードホーンは、
極めて穏やかで、中低音が豊かなマイルドな音となり、
従来の長岡式BHのイメージを覆すものとなるでしょう。
ただ、一つ難しいことがあるとすれば、
既存の完成済みBHに「詰め物」をしても、上記のような効果は得にくいのです。
「詰め物」は大抵それ自身が固有の音を付与してしまい、
空気室容量の差異という狙った効果を引き出しにくいからでは?と考えています。
<空気室容量を大きくした場合の再生音変化>
逆に、空気室容量を大きくした場合、再生音はよりダイナミックな方向へシフトします。
中高域の華やかさは強調され、シンバルなどの最高域も透明感と粒立ちをもって表現されます。
ユニット背面の音が自由に動けるようになったためなのか、
情報量も増大していく傾向がありますね。
低域は、共鳴音が強く感じられ、空気を動かすBHらしい豪快なものへと変わっていきます。
ただ、質感は不明瞭になり、低音域に後れを感じることもあります。
聴感上の低域楽器の存在感は、むしろ減少傾向にあるともいえます。
(背後で小さくなっていたパイプオルガンの旋律が聞こえにくくなるなど)
中低域に目を向ければ、共鳴音が強いという言葉通り、
箱設計(ホーンのとり回し)などで共鳴音が起こりやすい場合は、そこが目立ってしまうこともありそうです。
よく、「空気室容量が大きいから、ユニット→ホーンの中低域伝達が少なくなり、中低域の癖が少なくなるのでは?」と思ってしまうのですが、実験してみるとむしろ逆であることに気付かされます。
<スロート断面積>
スロート断面積というのはあいまいな概念で、
人によっては、「スロートに詰め物をすることで、スロート断面積を小さくする」という言い方をすることもあります。
私が考えるスロート断面積は、ホーン全体の断面積を支配する要因、としての意味合いで、
エクスポネンシャル曲線 S=S0×e^(m×x) のS0に相当する項のことです。
スロート断面積が半分になれば、
ホーンの断面積、容積も半分になるという定義の仕方です。
その場合、スロート断面積による影響を確認するには、多数の試作箱を用意する必要がありますが、
S-041では、ユニットの口径を変えることで、相対的にスロート断面積の大小の評価をすることができました。
<スロート断面積を小さくした場合>
スロート断面積を小さくすると、単純に密閉型に近くなります。
これが好ましいかどうかはユニットの選択に依存するところがあり、
いわゆるバスレフ向けのユニットであれば、そのユニットの持ち味を生かすことができる設計、と言えますし、
バックロード向けのユニットの場合、非常に窮屈で歪っぽい音になってしまうのです。
具体的に書くと、再生音からホーン由来の付帯音が減っていく方向となり、
ホーンの効き自体が弱まっていく感じです。 (当然と言えば当然ですね。)
中低域のゴワゴワ・モワモワした感じは減少し、ユニットが本来持っていた美しい中高音が顔をのぞかせるようになります。
それと同時に、中低音の質感も上昇し、結果的に全帯域で情報量・質感の向上が見込まれるのです。
一方で、小さすぎるスロート断面積は、帯域バランスこそ問題ないものの、音全体に窮屈な印象を与えてしまいます。
ユニット自身に周波数特性の凹凸がある場合(BH向けユニットに多い)、それが酷く目立ってしまうこともありますね。
<スロート断面積を大きくした場合>
スロート断面積を大きくしていくと、音全体がホーンに支配されていく傾向にあります。
ホーンの気柱共鳴により、最低域の音圧が向上し、驚くほど低い帯域まで音圧を出すことも可能になります。
音は大らかな感じに変化し、全体的に豊かなサウンドへと変化します。
ただし、ユニットのバランスを無視してスロート断面積を大きくした場合、
周波数特性こそフラットなものの、聴感上はひどく付帯音が多く、モヤモヤしたものになってしまいます。
さらに、下手をすると中低域に(ホーンのとり回しに由来する)共鳴が起こることもあり、
それを抑制するのは、大量の吸音材をもっても困難です。
結局、スロート断面積を小さ目に設計してしまえば無難な音ではあるのですが、
BHらしい「口径を超えた再生音」を目指すには、ギリギリまでホーン断面積は大きく設計したいものです。
大体バランスが取れるところとしては、振動板面積に対して、
バスレフ向けフルレンジ:0.6倍
バックロード向けフルレンジ:0.8倍
といったところではないでしょうか。
いろいろ考えてみたものの、
結局、長岡氏の推奨値辺りが無難という印象なのです。
さて、S-041も連載が7回目になり、
ここでひと段落ということにしようと思います。
S-041は、最終的にはホーン長が2mを超える鳥形BHとなりまして、
その状態での測定結果などは、また後日に報告しようと思います。
<before> (今までの視聴・測定編1〜7回目)
<after>
バックロードホーンというものは非常にシンプルなもので、
この図にしたようなものです。
現実には、ホーンは直管をつないだような構成なので、
理論的に求めた値からは若干ズレるようです。
ただ、私の印象だと、
大まかな音質はホーンの基礎設計で決まる…と考えています。
基礎設計、つまり空気室容量・スロート断面積・ホーン長・ホーン広がり率の4つがポイントなのです。
そこからの応用パターンとして、ホーンのとり回しや、開口部の位置などがあると考えています。
応用パターンばかり注目していると「BHは理論通りに動かないので、設計法が確立できない」ということになるので、
まずは基礎設計についての足固めが必要ではないか?と思っています。
今回の、試聴・測定編1〜6では、基礎設計部分の「空気室容量」「スロート断面積」についての確認ができたと思っています。
<空気室容量>
空気室容量というのは、「ユニットとホーンの接合の曖昧さ」を決定するものです。
この結合が明確に(空気室容量が小さく)なると、
ホーンからの再生音は中低域まで豊かなものになる共に、共鳴音は低減傾向にあります。
前者のホーンからの再生音が変化することについては、
長岡先生が「カットオフ」として明記していたことで広く知られているようです。
一方で、後者は案外知られていないのですが、気柱共鳴に基づく共鳴音を最も効果的に制御できるのはユニットの電磁制動であり、
空気室を小さくすることで、ホーン共鳴に対してより積極的な制動をもたらすことができるのです。
これら双方の観点から、空気室容量の調整は重要なのです。
<空気室容量を大きくしたときの再生音変化>
実際の再生音という観点から考えると、
空気室容量を小さくしていくと、中高域の存在感が弱まるように感じるのです。
機構としては、ホーンからの中低域再生音量が大きくなっているのですが、
実際にリスニングポジションで聴くと、相対的に中高域(ちょっと耳障りなボーカルの領域)が弱くなるように感じるのです。
また、低音の質感は改善傾向にあり、(他帯域に対して)小さな音量であっても、
明瞭で質感に富んだ低音が聴けるように変化します。
空気室を小さ目に設計したバックロードホーンは、
極めて穏やかで、中低音が豊かなマイルドな音となり、
従来の長岡式BHのイメージを覆すものとなるでしょう。
ただ、一つ難しいことがあるとすれば、
既存の完成済みBHに「詰め物」をしても、上記のような効果は得にくいのです。
「詰め物」は大抵それ自身が固有の音を付与してしまい、
空気室容量の差異という狙った効果を引き出しにくいからでは?と考えています。
<空気室容量を大きくした場合の再生音変化>
逆に、空気室容量を大きくした場合、再生音はよりダイナミックな方向へシフトします。
中高域の華やかさは強調され、シンバルなどの最高域も透明感と粒立ちをもって表現されます。
ユニット背面の音が自由に動けるようになったためなのか、
情報量も増大していく傾向がありますね。
低域は、共鳴音が強く感じられ、空気を動かすBHらしい豪快なものへと変わっていきます。
ただ、質感は不明瞭になり、低音域に後れを感じることもあります。
聴感上の低域楽器の存在感は、むしろ減少傾向にあるともいえます。
(背後で小さくなっていたパイプオルガンの旋律が聞こえにくくなるなど)
中低域に目を向ければ、共鳴音が強いという言葉通り、
箱設計(ホーンのとり回し)などで共鳴音が起こりやすい場合は、そこが目立ってしまうこともありそうです。
よく、「空気室容量が大きいから、ユニット→ホーンの中低域伝達が少なくなり、中低域の癖が少なくなるのでは?」と思ってしまうのですが、実験してみるとむしろ逆であることに気付かされます。
<スロート断面積>
スロート断面積というのはあいまいな概念で、
人によっては、「スロートに詰め物をすることで、スロート断面積を小さくする」という言い方をすることもあります。
私が考えるスロート断面積は、ホーン全体の断面積を支配する要因、としての意味合いで、
エクスポネンシャル曲線 S=S0×e^(m×x) のS0に相当する項のことです。
スロート断面積が半分になれば、
ホーンの断面積、容積も半分になるという定義の仕方です。
その場合、スロート断面積による影響を確認するには、多数の試作箱を用意する必要がありますが、
S-041では、ユニットの口径を変えることで、相対的にスロート断面積の大小の評価をすることができました。
<スロート断面積を小さくした場合>
スロート断面積を小さくすると、単純に密閉型に近くなります。
これが好ましいかどうかはユニットの選択に依存するところがあり、
いわゆるバスレフ向けのユニットであれば、そのユニットの持ち味を生かすことができる設計、と言えますし、
バックロード向けのユニットの場合、非常に窮屈で歪っぽい音になってしまうのです。
具体的に書くと、再生音からホーン由来の付帯音が減っていく方向となり、
ホーンの効き自体が弱まっていく感じです。 (当然と言えば当然ですね。)
中低域のゴワゴワ・モワモワした感じは減少し、ユニットが本来持っていた美しい中高音が顔をのぞかせるようになります。
それと同時に、中低音の質感も上昇し、結果的に全帯域で情報量・質感の向上が見込まれるのです。
一方で、小さすぎるスロート断面積は、帯域バランスこそ問題ないものの、音全体に窮屈な印象を与えてしまいます。
ユニット自身に周波数特性の凹凸がある場合(BH向けユニットに多い)、それが酷く目立ってしまうこともありますね。
<スロート断面積を大きくした場合>
スロート断面積を大きくしていくと、音全体がホーンに支配されていく傾向にあります。
ホーンの気柱共鳴により、最低域の音圧が向上し、驚くほど低い帯域まで音圧を出すことも可能になります。
音は大らかな感じに変化し、全体的に豊かなサウンドへと変化します。
ただし、ユニットのバランスを無視してスロート断面積を大きくした場合、
周波数特性こそフラットなものの、聴感上はひどく付帯音が多く、モヤモヤしたものになってしまいます。
さらに、下手をすると中低域に(ホーンのとり回しに由来する)共鳴が起こることもあり、
それを抑制するのは、大量の吸音材をもっても困難です。
結局、スロート断面積を小さ目に設計してしまえば無難な音ではあるのですが、
BHらしい「口径を超えた再生音」を目指すには、ギリギリまでホーン断面積は大きく設計したいものです。
大体バランスが取れるところとしては、振動板面積に対して、
バスレフ向けフルレンジ:0.6倍
バックロード向けフルレンジ:0.8倍
といったところではないでしょうか。
いろいろ考えてみたものの、
結局、長岡氏の推奨値辺りが無難という印象なのです。
さて、S-041も連載が7回目になり、
ここでひと段落ということにしようと思います。
S-041は、最終的にはホーン長が2mを超える鳥形BHとなりまして、
その状態での測定結果などは、また後日に報告しようと思います。
<before> (今までの視聴・測定編1〜7回目)
<after>